プロフィール
・氏名:矢上 浄子(やがみ きよこ)
・会社名:アンダーソン・毛利・友常法律事務所
・役職名:弁護士
・簡単な経歴:大学卒業後、中国北京市の大学院に留学し国際経済法を専攻。その後、アメリカでニューヨーク州弁護士の資格を取得。中国に戻り現在の事務所の北京オフィスに入所するが、日本企業向けの法律業務のためには日本の弁護士資格を取得すべきと思うに至り、帰国して日本のロースクールに入学。2008年に日本の弁護士となり、現在の事務所に再入所。非常勤で大学・大学院の講義も担当している。
・居住地:東京
・ご自身の年齢 :42歳(1976年生まれ)
・お子様の年齢 :7歳、5歳、2歳(2011年生まれ、2013年生まれ、2016年生まれ)
・ワークスタイル:フルタイム
現在のお仕事の内容、ワークスタイルを簡単に教えてください。
私が所属するのは、所属弁護士が400人を超える大手法律事務所で、国内外の企業が依頼者の大半を占めています。私自身は、独占禁止法、国際契約交渉、国際訴訟・仲裁などの案件を多く担当しています。
日常業務としては、依頼者との会議、契約や訴訟・届出書類の作成、裁判所への出頭、交渉の立会いなどがメインです。海外とのやり取りも多いので、深夜・早朝の電話会議や海外出張も少なくありません。また、最近はプロボノ(公益活動)として、外国人の難民認定申請のサポートもしています。
主人も、所属は違いますが、同じ企業法務弁護士です。平日はすれ違ってばかりですが、お互い週末は家族との時間を大事にするようにしています。
平日1日のスケジュールを簡単に教えてください。
7:00 起床、朝食準備
7:30 朝ドラを見つつストレッチ、朝食
8:30 子供の登園送り
9:30 出勤
23:00頃 退勤(仕事の状況によっては午前様となることも)
帰宅後、子供の宿題チェックや翌日の準備
1:00 お風呂、就寝
(子供の迎え担当の日)
17:45 退勤
18:00 子供の迎え、習い事同行
19:30 帰宅、夕食
20:30 子供の宿題を見る
21:00 お風呂、寝かしつけ
22:00 片付け、洗濯
23:00 自宅で仕事再開
2:00 翌日の準備、就寝
出産して、何が一番変わりましたか?
出産前に比べ、マネジメントの対象が格段に広がったことでしょうか。自分の仕事のスケジューリングに加えて、娘3人分の学校・保育園の行事や習い事の管理、手伝いに来てくれる義母やシッターさんとの連絡など、すべてを抜かりなくマネージする必要があります。特に、私の海外出張は家族の一大事。遠方の実母にも支援をお願いしたり、毎日の予定をリスト化したりと、出発前には入念な準備が必要となります。
そのせいか、仕事のうえでも、チームワークにおけるマネジメント能力が高まった気がします。ただ、時間が空いたらフラッと海外旅行に出かけていた頃が、今は少し懐かしいです(笑)。
ワーママとして育児&仕事をしていて良かった~!と思うHappyなエピソードを教えてください。
娘たちを通じてネットワークや行動範囲が広がったことです。子供が生まれる前は、夫婦ともに仕事一辺倒で、随分と地味な生活をしていました。今ではママ友・パパ友と職業や年代を越えたお付き合いができたり、学校や地域のイベントに参加したりと、生活自体が彩豊かなものとなりました。これも娘たちが運んできてくれたご縁と、変化を楽しんでいます。
育児&仕事をしていて大変なことはありましたか?それは何ですか?
次女の出産が、主人の一年間の海外駐在のタイミングと重なったことです。主人には「安心して行ってきて、私は大丈夫」と大見栄を切ったものの、2人育児の初期を完全にワンオペで乗り切るのは想像以上に大変でした。復職直後に、長女の溶連菌がうつり、職場で倒れて病院に運び込まれたこともありました。幸い点滴のみで当日帰宅できましたが、娘たちが待っているのに身動きがとれない辛さで、絶望的な気持ちになったことが今でも思い出されます。
それをどうやって解決していますか?
そのときのトラウマから、ワーママは体が資本との信念を持つに至り、自分の体調管理には特に気を付けるようになりました。職業柄、睡眠時間が短いのが悩みですが、それでも毎朝のスムージーに自宅でのストレッチ、週末のジョギングは欠かさないようにしています。さらに、目標があった方がモチベーションも高まるので、フルマラソンの大会にも年一度のペースで参加しています。
また、元々あまり人に頼れない性格だったのですが、上述の「溶連菌事件」を経て考えが改まり、今では仕事でも育児でも、周りの方々の助力を要所要所で得るようにしています。
育児と仕事、それぞれで一番大事にしていることは?
一番大事なのはもちろん体力ですが(笑)、周囲の人々と密なコミュニケーションをとることも、育児と仕事の両立のうえではとても大事なことだと思っています。たとえば育児では、子供の発熱などの「イレギュラー」がつきものです。他方で、弁護士には職務上、依頼者のためにベストを尽くす義務があるので、子供の理由で仕事に穴を開けるわけにはいきません。普段から家族や職場の同僚、保育園や学校の先生方、ママ友・パパ友らと頻繁に声を掛け合っていれば、イレギュラーが生じたときもお互い協力しやすいという面があります。また、そのようなコミュニケーションの積み重ねが、大きなリスクを回避するセーフティネットの役割を果たすものと思っています。
中国留学後、なぜ弁護士を目指したのですか?
中国留学中、アルバイトで通訳をする中で、中国ビジネスに奔走する日系企業や起業家の方々に数多く出会いました。自分の法律の知識や語学力を活かし、ビジネスの第一線で活躍する方々を支えたいと思ったことが、企業法務弁護士を目指したきっかけです。
弁護士になるまで、中国やアメリカに留学したり、就職したかと思えば2年で辞めて司法試験に挑戦したりと紆余曲折がありましたが、変わらず励ましてくれた両親の存在も大きかったです。娘たちが将来、弁護士を目指したいと思うかどうかは分かりませんが、私も娘たちが岐路に立ったとき、常に支えてあげられる存在でいたいと思います。
チームで育児に取り組まれている矢上さん。4人のシフトはどんな感じで組んでいるのでしょうか?また、どうやってチーム育児を実現可能にしたかも教えてください。
娘たちはまだ小さく手がかかり、ワンオペではやや大変です。そこで、主人、義母、シッターさんには、なるべく2人で対応してもらえるよう平日夜のシフトを組んでいます。例えば、月曜はシッターさんがお迎えで、夕食・洗濯は義母の担当、というように。
娘たちもしめたもので、パパお迎えのときは牛丼チェーン店で外食、おばあちゃんのお迎え後は公園で遊ぶなど、それぞれ甘えポイントを押さえているようです。ちなみに、水曜日は私のワンオペシフトの日で、その日は娘たちにしっかりガス抜きをさせています。
今後の目標やプランを教えてください!
頼られる弁護士であるために、自分のスキルアップの時間もきちんと確保することが当面の目標です。今はスキルアップどころか、美容院に行く時間すらなかなか取れませんが…。
また、ここ数年、海外旅行からすっかり足が遠のいているので、娘たちがもうすこし大きくなったら、いつか娘たち主導で海外旅行を企画してもらいたいなと思います。
最後に、メッセージをお願いします。
海外の法律事務所では、育児しながらキャリア的にも成功を収めているママ弁護士をよくお見かけします。ママであることを強調する人がいないことからして、おそらく両立が当たり前の社会なのでしょう。日本の女性弁護士の比率は18%と他国に比べ低く、女性弁護士のキャリア形成が難しい状況にあることも否めません。
そこで私は、まずは職場での理解が広まればという思いから、所内の若手弁護士向けに定期的に「両立勉強会」を開いています。本サイトをご覧いただいているワーママにも、分野は違っても、できる範囲で情報発信をしていただき、一緒に両立に寛容な社会づくりを目指していけたらと思います。
インタビューby 藤嶋 菜穂子