今回は東京と兵庫を行き来しながらNPO法人で活躍するパワーママ岡本さんをご紹介します。
海外での就職ランキング上位に入ったり、社会起業家が注目されたりと話題にのぼることも多くなったNPO。民間企業からNPOの有給職員第一号として転職され、忙しい毎日を送る岡本さんにNPOで働く醍醐味、東京と兵庫を行き来しながら働く工夫などを伺いました。
プロフィール
・氏名:岡本(中島) 祥公子(おかもと(新姓:なかじま)さよこ)
・会社名:認定NPO法人サービスグラント
・職種:NPO職員(プロボノプロジェクトのコーディネーター)
・簡単な経歴:
兵庫県宝塚市生まれ。
2004年:SFC(*1)卒業後、フリーランスのクリエイターを支援する人材系会社(株)クリーク・アンド・リバー社入社。5年半、営業・営業企画などに従事。
2009年:「クリエイターならではの社会貢献」をテーマにした社内有志のイベント開催後、国内のプロボノ(*2)の草分け、NPO法人サービスグラントに初の有給スタッフとして転職
2011年:関西事務局長(一人事務局)として東京から転勤
2015年:産育休を取得
2016年:復帰後は東京を主な生活拠点に、子連れ出張をしながら東阪のプロジェクトのリーダー・メンバーとして参画
(*1) 慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスの略
(*2) 仕事で培ったビジネススキルや経験を活かしてNPO・地域団体などを応援するボランティア活動。語源はラテン語。(英訳for good public、公共善のために)働き盛りの社会人からアクティブシニアの社会貢献活動、子育て中のママの復職準備、越境学習の研修としてなど、多方面から注目を集め始めている。
・居住地:だいたい、東京都、ときどき、兵庫県
・ご自身の年齢 :37歳
・お子様の年齢 :3歳(2015年生/長女)
・ワークスタイル:在宅ワーク、リモートワーク、複業
現在のお仕事の内容、ワークスタイルを簡単に教えてください。
仕事は、一言でいうとボランティアプロジェクトのコーディネーターです。
社会課題の代弁者と言われるNPOや、地域で公益的な活動を担う地域団体など非営利活動の基盤を応援する目的で、ビジネススキルや仕事での経験を生かすボランティア「プロボノ」の参加者を募り、両者で取組む協働プロジェクトのコーディネートをしています。パートナー(企業・行政)とタッグを組んで、NPO・地域団体、プロボノワーカーへの説明会開催やニーズの聞き取り、チーム編成、プロジェクト立ち上げ後の進行の見守りなど、成果物の提供、アセスメントまで一連のサポートを行います。
その他、プロジェクトの成果報告のイベントや勉強会などの企画実施も実施しています。
ワークスタイルは時短勤務で、東京の事務局に出勤しながら東京のプロジェクトと関西(大阪・神戸)の事務局メンバーとは主にオンライン会議や子連れ出張を組み合わせて一緒に動いています。週1度程度を目安に在宅ワークをしたり、妊娠中から始めた顔の見える関係間で子育てを頼り合う「子育てシェア(AsMama提供)」の認定ママサポーター(支援側)として、他のお子さんの短時間の送迎や緊急時の見守りサポートを出来る範囲でしています。
平日1日のスケジュールを簡単に教えてください。
7:30 起床
8:45 保育園登園(週1-2程度パパの出番)
9:30~10:00 出社
オンラインミーティング、プロジェクト運営、イベント企画など
18:00 保育園お迎え
19:00 晩ご飯、お風呂
20:30~21:00 こども就寝
21:00以降 日によって1-2時間程度、仕事
なぜNPOという組織で働く選択をされたのですか?
たまたま仕事として選んだ先の法人形態がNPOで、ベンチャー企業の1人目のスタッフという感覚で転職しています。
一番の理由は、「この仕組みがきちんと広がったら・・・と色々な可能性についての妄想が止まらなかったこと」、そして「世の中的には絶対数の少ないユニークなキャリア、ニッチな経験が出来るチャンス」と思い切れたことです。
NPOというと、アメリカで就職したいランキングの上位に教育系NPOが入っていたり、国内でも「社会起業家」と呼ばれる社会課題の解決にビジネスの手法で取組むNPOの代表達がメディアなどで注目を浴びていたり・・・。でも未だにNPOが利益を出してよいのか?NPOで働くってお給料は出るの?という認識がまだまだ一般的だと感じています。プチ雑学ですが、今年はNPO法ができて20周年の成人式と言われていて、今では国内に約5万団体の非営利活動法人があります。
私はちょうど中学1年生で阪神淡路大震災を経験していますが、何かあった時はお互い様、と現場で沸き起こるたくさんの困った課題を自律的に解決する市民の力が認められて、市民活動にも法人格を付与し社会的な地位を認めていこう、と初の議員立法でNPO法が作られた歴史があります。
例えば、難病の子どもの入院時の学習支援や遊びのボランティアをする、不妊当事者のピア・カウンセリングを行う、介助犬の普及・啓蒙を担う、など特定の社会的な課題やニーズに応える活動を担うNPOがある中で、サービスグラントはNPOを応援するNPO(「中間支援組織」と呼ばれる)として、他NPOの事業運営の基盤を強く、よりよくするために、ビジネススキルや経験を活かしたボランティア「プロボノ」を呼びかけNPOの応援者、共感者を増やしポジティブに巻き込んで行く役割を担っています。
色々なニュースに見え隠れする社会的な課題について多くの人は気になっていて、どうにかよくなるようにという思いはあっても、仕事も忙しい自分がどう関わっていいのか分からない、踏み出せない。。。そこで、仕事を持つ社会人でも現実的・効果的にNPOや社会課題に参画できるよう「チームを組み」「期間限定で」「具体的な成果物を提供する」仕組みを備えたプロジェクト運営で、会社以外の場でも社会に参加する“一歩目の機会”を創出しています。
転職当時は、代表のライフワーク的に年間約3件のプロジェクト規模だったものをもっと広げようとしていたタイミングでした。この仕組みがきちんと機能すれば、誰もがどういう環境になっても支える受け皿がある社会になるし、誰かの「困った」や「悩み」を見過ごさず真摯に対応しているNPOへ、応援のタスキリレーが出来るし、参加する社会人は所属、肩書き関係ない個人として豊かな人間関係が紡がれるのではないか。誰かの役に立ちたい、力になりたい社会の中にあるピュアな気持ちを集めて成果に変えるこの変換装置は“社会の健康指数をあげるんじゃない?”・・・、そんなハッピースパイラルがばっと広がった瞬間から今へと繋がります。
以前に実家で大学入試の小論文のコピーを見つけて懐かしく読んでいたら・・・すっかり忘却の彼方にありましたが、「頑張っていても継続性に課題を抱えるNPOにお金や人の経験や知識といった運営資源が循環する社会。行政の責任ではなく、ありたい未来に色々な人が得意をいかして参加できる社会。その仕組みに貢献できる自分でいたい。」と書いていた17歳の私を発見。過去の自分の未来の妄想は、今思うと、見えない所で今の仕事への選択を後押していたのかもと思ったりします。
またワーママとしてNPOで働く中で感じることは何かありますか?
ワーママとしてNPOで働くことで感じることの1つは、女性らしさを活かしやすくやり甲斐を感じやすい職場ではないか!ということ。
サービスグラントに関わるまで大学で学生NPOにほんの少し関わったことはありますが、運営側にいた経験もなく決してボランティアが身近にあったという訳ではありませんでした。サービスグラントでの仕事を通じて、社会課題の代弁者ともいわれるNPOの活動には、継続するための経営、経済性ももちろん大事だけれど、それ以上に関わった人がよりよく変わったのかが上位の価値になる。かの有名なピーター・ドラッカーも、「非営利組織とは、人を変えるためのチェンジ・エージェントである。」と残していることを代表から教えてもらいました。人の変化が最大の価値であるNPOという組織。実は、子育ての経験を通じて人が育つ、変わっていく楽しさややり甲斐を間近で体感しているママ達にとって、仕事の価値(人が変わる醍醐味)を自分に落としやすいフィールドなのではと思います。
サービスグラントでも応援先NPO・地域団体への共感や尊敬、参加されるプロボノワーカーへの感謝をベースに、みんな初めて会う方達同士が期間限定で一緒に協働することをサポートする仕事柄、緊張をほぐして場を和ませる、親しみをもって気持ちよく接する、トラブルがあっても柔らかく対応する事が多い。男女という性差よりも個人差という所が大きいかもしれないですが、感覚的にそういう役回り、立ち回りを得意とする女性の特性が生かされやすい職種だと思います。
2つ目は、子育てと両立しやすいちょうどよい環境を得やすい!
NPOすべてに当てはまるわけではないかもしれませんが、サービスグラントを事例にあげると、20名の同僚がいますが約7割は女性でワーママも多数。それぞれの希望にあわせて社会保険完備のフルタイム、他本業とのパラレルワーク、アルバイトと働き方の多様性に満ちています。オンライン、クラウドツールの活用でPCがあればそこが仕事場になりえるので子どもの急な発熱や感染症にかかった時には在宅に切替えるなど柔軟な働き方が選択できます。一つ一つのプロジェクトの成功という目標はぶらさず、緊急的な状況変化に対して男性の同僚含め全員に理解があるので対応も現実的で気兼ねもなくストレスがない。イマドキというかその人にあった働き方を自由に選べるという点で働き方改革最先端な気がしています。
NPOであっても事業運営を継続的に行うためには、管理、業務の組み立て、マーケティング、営業、広報など企業で必要とされる一連の機能が本来は必要なので、一旦、子育てのために離職して緩やかな復帰を目指す元ワーママや、子育てが少し落ち着いて仕事復帰を考えるママのこれからの仕事の選択肢に「NPOで子育ても仕事もちょうどよく働く」が入ってくるとソーシャルセクターはますます元気になるように思います
サービスグラントのサイトはこちら
現在は、東京と大阪・神戸を行ったり来たりの生活だと聞いていますが、お子様も小さい中で大変ではないですか?
物理的な移動や荷物、仕事中の子どもの居場所、子どもを含んだ時間の見通し、子どものご機嫌・・・調整指数が確かにたくさんありますが、東京にいる日常と、関西出張の非日常をうまく組み合わせて子どもも一緒に楽しめるように・・・と思っています。
・滞在回数を必要最低限にできるようアポをまとめる
・詰めすぎると子どもがストレスを感じることが分かるのでなるべく余白時間を予め入れる
・他のメンバーに代われること、お願いできることは頼む
・現場にいなければいけないこと以外のオンライン対応可の事はオンラインで
・対応が柔軟な一時保育を確保し、大阪ではここ、神戸ではここと固定の拠点にする
・適度に親に頼る(ベースは実家滞在でも、常に優先してもらうと負担も大きいので、無理な場合もありとする。一時託児、ホテルも場合によって活用する)
・新幹線は密着遊び場スペシャルタイム、この間は一緒にシールと紙で水族館を作ろう、とか、お楽しみを一緒につくる。
地図持参で県の名前やここは何がおいしいらしい、と特産物を一緒に覚えたり、移動する度に共有する言語を増やせてラッキーとする。パパに憶えた自慢を聞いてもらう。
物理的な大変さも、足して引いて結局プラスだな、と思える状態に持っていきたいなと思います。
出産して、何が一番変わりましたか?
楽しみが増えたというか、笑かされる事が増えました。
命のリレーというか、世代で引き継いで、今度また渡していく流れの中にいるんだ、と当たり前の事を改めて感謝しました。あとは、子どもの未来に恩送りはしても課題の先送りはなるべくしたくないな。選択肢があって失敗しても何度でもやり直せる、助け合える文化・社会を残せるようにしたいという思いはより強く思うようになりました。
育児&仕事をしていて大変なことはありましたか?それは何ですか?
忙しいとか、大変と思ってしまうと全部がその色で見えてしまうから、基本はどうやったら楽しめるか、面白がれるかをイメージしたいタイプ。ですが、抱っこ紐で一心同体の期間、コミュニケーションが取れるようになる3歳までの間の時期の子連れ出張と仕事のやりくりはかなり難易度が高い、と焦ったり汗をかいた記憶が多々あります。
子どもの成長とともに、仕事、生活のちょうどよい塩梅が変わるのをチューニングし続けるという事だと思うのですが、それはずっと模索中。
可処分時間が限られる中で何を取るか、何を置くかというのはいつも命題です。
それをどうやって解決していますか?
ふと気づくと、自分の住む地域との繫がりを持っていなかったので、出産をきっかけに地域の子育てママ達と繋がって助け合う子育てシェアという仕組みに乗っかって、ママサポーター(ママを支援する側)を始めました。病院に行きたい間や、上のお姉ちゃんの用事の間に下の子を見ていて欲しい、色々なニーズに応えて数時間だけ一緒に遊んだり、送迎サポートをしたりするのですが、他の子どもと自分の子どもが交わっている中に子どもの成長が見えてきたり、他のお子さんとの関わりを通じて、このマジックワードは自分の子育てにも生かせそうだ、とか。普段は子育ての楽しみを保育園に託してしまっていて、自分と子どもだけの世界が通常ですが、ポンっと一時的に外にワープできる第3の活動場所を持つと色々自分に良い効果があるなと思います。
可処分時間の制限の考え方は、段々、1度のアクションで2倍、3倍の効果、期待を満たすものになりそうだ、という事を選択する傾向になった事で少しずつ改善している気がします。
育児と仕事、それぞれで一番大事にしていることは?
自分自身が精神的にも肉体的にも健やかでいること。
「触らないで」と拒否られるまで(拒否られても)こどもとスキンシップを。
育児も仕事も繋がっているので、自分の状態は子どもにもそのまま跳ね返る気がします。親が何やら楽しそうに一生懸命生きているという様子をそのまま伝える、一緒に時間・空間を共有できるものは子どもと一緒に、のスタンスがいいなと思っています。
今後の目標やプランを教えて下さい!
最近の月9の中で「プロボノ」が登場していたそうなのですが、自分らしくこれまでの仕事の経験を生かして社会の何らかの課題の一場面に具体的に関わるプロボノが普通の振る舞い、働き方として文化になる源泉に関わっていけるとよいなと思っています。
ゆくゆくは、という事では、人と人、人と組織を繋ぐという事を仕事にしてきているので、自分が暮らす地域でも世代やセクターを超えたチームで未来に仕掛ける、でも自分には何も肩書きのない、でもそこには欠かせない、何か楽しいこのおばちゃん、おばあちゃんのポジションを目指したい(笑)
最後に、こちらのインタビューをご覧になっている方に向けてメッセージをお願いします。
仕事ですでに社会に貢献している上に、さらにプロボノでも貢献を、と迫るつもりはないので(笑)それぞれのライフステージや優先順位の中で、仕事以外に自分らしく役立てる機会があれば、とか、見過ごせない誰かのニーズを感じて何か協力したい、と思うタイミングがあれば、プロボノの選択肢を思い出していただけたらいいなと思います。
ワーママの中で、産休育休を今後取得するママがおられたら、育休中、一旦子育てなどを理由に離職した方で復職を検討している子育て中のママ達チームが約1ヶ月半程度で取組む【ママボノ】というプロジェクトがオススメです。初顔合わせで一瞬の内に本音を忌憚なく通わせ、赤ちゃんの授乳、離乳食を食べさせながらプロジェクトのゴールや段取りを話し、持ち前の共感とコミュニケーション力で和やかに的確にニーズを捉えて提案をまとめていく。そんな怒濤のパラレルワーク協奏曲で毎年、短期間の内に内容の濃い成果物が生み出されています。
同じタイミングに産育休を取得するワーママならではの新しい仲間を得られるチャンスでもありますので、ご関心のある方、周りに該当される方がおられたらぜひ、情報シェアいただけたらと思います。
子連れでできる社会貢献と復職準備 ママボノはこちら