▼プロフィール
・氏名:植前 理紗
・会社名:国際通貨基金アジア太平洋地域事務所(IMF OAP)
・役職名:エコノミスト
・簡単な経歴:日本で大学を卒業後、イギリスで経営学修士号を取得。2010年日本銀行へ入行。育休明け後、2017年7月よりIMFアジア太平洋地域事務所(OAP)に出向中。
・居住地:神奈川県(出産後、都内から実家の近くに引越しました)
・ご自身の年齢 :34歳(1984年生まれ)
・お子様の年齢 : 3歳(2016年生まれ)
▼現在のお仕事の内容、ワークスタイルを簡単に教えてください。
IMFのエコノミストとして、担当国のカンボジア経済調査を行うほか、東京を含めたアジア域内でのセミナーを企画・実施しています。ちなみに、事務所には20人中15人が女性、10人がワーママです!
色々なイベントを開催しておりますので、IMF東京オフィスのサイトをぜひご覧ください。
(日本語)https://www.imf.org/ja/Countries/ResRep/OAP-Home
IMFの仕事については下記URLをご覧ください。世界銀行との違いは?金融支援って?などなど
(日本語)https://www.imf.org/ja/About/Factsheets/IMF-at-a-Glance
▼平日1日のスケジュールを簡単に教えてください。
5:45起床・自分の身支度・子供朝ごはん準備
6:30子供起床・朝ごはん
7:30 – 8:00 保育園送り(子供のいやいやが激しくて最近なかなかうまくいきません)
9:00出勤(自分の朝ごはんはデスクで)
17:30 退社
19:00 お迎え
19:45 夕食
20:30お風呂
21:00子供と遊ぶ時間(遊ばないと寝ません、子供との貴重な時間です)
22:00 子供就寝
22:30 メールチェック、残りの家事など
24:00就寝
夫は単身赴任中のため基本ワンオペですが、実家の助け(父・母・妹)をかなり借りています。早朝出勤、残業、出張時には実家に送迎をお願いしています。
▼出産して、何が一番変わりましたか?
周りへの思いやりの気持ちが強くなりました。
子供の突発的な熱やイヤイヤ期など自分ではどうしようもできないことが増えました。同じ子供がいる家庭でもそれぞれ状況は異なりますし、介護や他にも各々の事情を抱えているかもしれないということを思うようになり、自分ができるときはサポートしようと思うようになりました(今はサポートしていただいてることの方が多いのですが。。)。
我が家は子供の定期的通院が必要なため(多い時で週1~2)、職場の皆さんのご理解、保育園の先生方からサポートいただいているほか、私だけだと有給休暇の日数が足りなくなってしまうので半分以上を母にお願いしています。
ワンオペという言葉はよく聞きますし、私も自分がワンオペと言っていますが、一人で全部できるスーパーママなんて実際にはほとんどいないと思います。家族間だけではなく、保育園や職場・ご近所などサポートのサイクルが色々な所に繋がっていき、悩んでいるママが減っていくといいなと思います。
▼ワーママとして育児&仕事をしていて良かった~!と思うHappyなエピソードを教えてください。
子供を通していなかったら出会う機会がなかったかもしれないママ友ができたことです。また、保育園では保育のプロの先生方が全力で遊んでくれたり、マナーを教えてくださったり、家庭内だけでは決してできないことなので、日々保育園から帰ってくる子供が成長しているのを感じるのは幸せです。
仕事面でも、ママさん・パパさん同僚との会話がはずみます。また、時間が限られるようになったため、「生産性」を意識するようになりました。働ける時間は減りましたが、正直、出産前よりも今の方が、効率が上がっているのではないかと感じます。
▼育児&仕事をしていて大変なことはありましたか?それは何ですか?
育児と仕事の量のバランスをとることです。もちろん子供が一番で何者にも代え難い存在です。一方で、仕事ではありがたいことに出張を含め色々とチャンスを頂けるので、つい全てに飛びつきたくなります。ここで、どこまで挑戦するか葛藤が生まれます。「同じ子供を持つ男性はできることが多いのに、なぜ女性だとできないのだろう?キャリアを積みたい時期と子育ての時期がかぶっているのは男性も女性も同じはずなのに女性の方が悩んでいる」と悶々としたこともあります。
色々な方と話していてもこういう想いをした方は多いのではないかと感じています。
また、多くのお子さんが通る道だとは思いますが、イヤイヤ期継続中のため、朝にストライキを起こす子供と一対一で向き合い、最終的に左腕に15Kg超の子供を抱え、右手には荷物を抱えて保育園に向かうときは体力的にきついなぁと思います。。(笑)
作り置きや朝に晩ご飯の下ごしらえをできるママさん達を本当に尊敬するのですが、なかなかそこまでできない私は保育園から帰ってきて、夕食準備と洗濯・掃除に加えて、かまってほしい息子の相手とてんやわんやで焦って包丁で指をざっくり、形成外科に通うというかえって余計なことを増やしてしまうこともしばしばです。。。
▼それをどうやって解決していますか?
家庭と職場それぞれとよくコミュニケーションを取るようにしています。家庭にはチャンスをもらえそうなときにその予定が確定していなくても、話が来た時点で相談するようにしています。そしてどこまでならヘルプをお願いできそうかよく話し合います。
職場にも今の家庭の状況などなるべく細かくアップデートするようにして、どの仕事ならできるのかはっきり伝えるようにしています。分からない場合も伝えますが、ずっと曖昧だと同僚も動きづらいのでなるべく早めにYes/Noを伝えるようにしています。
子供のイヤイヤに正直イラっとしてしまうこともありますが、イヤイヤ期の姿を子供が大きくなったら見せてあげようと動画を撮ったりして楽しむようにしています。朝時間が本当にない時は、保育園の先生に丸投げしてしまいます(笑)。
先生方との話題は専ら子供のことですが、保育園の先生も同じ働く女性であり、もっと色々お話する機会ができたらなと思っています。
▼育児と仕事、それぞれで一番大事にしていることは?
【仕事】生産性を意識することと、急に出社できなくなったときのために引き継ぎ体制を万全にしておく(エクセルは基本的にコピペはせずに関数を使う&データ元を記載、自分が考えていることや疑問点は自分の頭の中に留めずにボックスなどに明記して進捗状況が分かるようにしています)。
【育児】子供にたくさん話しかける。この後にも述べようと思っていますが、毎日何回も子供を抱きしめて「大好きだよ」と伝えています。朝の出勤時に「ママ、行かないで」と言われるときは、「ごめんね」ではなく(つい言ってしまうことも多々ありますが)、「パパとママが働くから、大好きな〇〇(今はあんこブームのため、たい焼き&どら焼き)も買えるんだよ。協力してくれてありがとう」と言うようにしています。“働くことは当たり前で家族みんなで協力していているから今の生活がある”と息子が理解してくれる日がくると信じています。
▼国際機関で働いてみて日本との違いを感じますか?
国際カンファレンスや海外政府関係者との面談で感じるのは、女性、特に女性管理職の多さです。そしてその女性達の多くがワーママなのです。日本では、出産後、キャリアアップを諦める女性がまだまだ多いと感じています。
この違いの一つの原因として、出産後の戻りやすさではないかと思います。例えば、日本では早目に復帰した授乳中のママはトイレや誰もいない会議室を見つけて搾乳していることがあるかと思いますが、IMFの本部には登録したママだけが使えるセキュリティが確保された搾乳室があります。このたった一つの部屋があるだけで、ママは復帰を歓迎されていると感じ、安心できるような気がします。
育児中の女性が職場にいることが当たり前と思わせてくれるこういった環境がより多くの女性の背中と意欲を後押ししてくれるのではないかと感じています。
そして、東京オフィスからは昨年・今年と連続で女性エコノミストが本部採用になり、旦那さんとお子さんをワシントンに連れていくという事例が出ています。旦那さんもアメリカでのキャリアアップに挑戦するそうです。日本では奥さんの転勤に旦那さんがついていくということにまだまだ驚きの反応となることが多いと思いますが、チャンスを掴んだら男女関係なく挑戦できる環境というのは理想的だと思いました。
▼何が一番の課題なのでしょうか?
物理的に保育園が足りない、保育士が足りないということはありますが、男女ともに「意識改革」がキーとなるのではないでしょうか。ママパパ達とお話する機会の中で、ママパパ間で「認識の差」があることを感じています。
【男性側】
まずは経験を!
半々に家事・育児をしているパパが少しずつ増えていることも事実ですが、子育ての中心は依然として母親であって、父親は「手伝う」といったスタンスが多いと思います。しかし、父親も母親も働いていて、子供は二人の子であって、二人ともが子育ての主体であるべきではないでしょうか。毎日のサイクルの中での育児の大変さがあることを、経験・実感することが大事だと思います。
ある企業が全男性部長に短時間勤務トライアルを実施したことを取り上げた記事では、「子どもとの時間が取れて初日はとても楽しかった。でも日を重ねるごとに仕事が終わらないまま退社するストレスと、言うことをなかなか聞かない息子たちへのイライラが募り、最後は爆発寸前。1週間が限界」という感想が出ていました。
「仕事も家事も子育ても介護も」任せられて、それを全てこなせるスーパーウーマンはいないと思います。「世界一寝ていない女性と、働きすぎる男性」と言われている日本は、働き方を真剣に考え、男性も女性も皆で仕事と子育てをシェアして、ワークライフバランスが適切にとれる環境作りが必要なのです。
「女性を活躍させてあげる」という認識がまだある男性には、共に頑張らないといずれ立ち行かなくなるということをどうしたらわかってもらえるのか難しいです。。
【女性側】
罪の意識を感じすぎる…
職場や友人と話していると、仕事で遅くなり料理を作れなくてお惣菜を買ったときに罪の意識を感じるママ達が多くいます。一方で、パパは「遅くなるなら外食か惣菜・弁当を買ってくればいい」とケロっとしています。パパには子供が食べるものにもう少し気を遣ってほしいと思いつつも(笑)、ママはもっと気楽になってもいいのではないかと感じます。
嬉しいことに、最近は子供の口に入るものを意識したお弁当や冷凍食品が出てきています。たまには、こういうものを取り入れて、お母さんだけが家族の食事の全責任を負わなければならないという意識から解放されていければといいなと思います(と、自分に言い聞かせています)。
(出所)
・男性管理職も体験、育児の時短勤務
・世界一寝ていない女性と、働きすぎる男性と/OECDデータに見る奇妙な国・日本
▼現在、IMFのトップであるクリスティーヌ・ラガルド専務理事(取材日時点)もワーママだったとのことですが、彼女から学ぶことはありますか?
彼女と直接話をする機会が幸運にもあり、その言葉は皆さんの励みにもなると思うのでご紹介させてください。子育てで一番大切にしていたことはという問いに、彼女は一言「LOVE」と答えました。
彼女自身、「子育てと仕事を両立させる鍵は自分の意識を変えること、つまり自分の罪の意識と戦うことだった。母親は、子どもを置いて、仕事やほかのことをすることに対して、深い罪の意識を持つもの。また、育児をしているときは仕事に対して罪の意識を持ってしまう。」と言っています。
しかし、彼女はこうも言っています。「罪の意識が完全になくなるわけではないが、子どもは母親から離れて過ごす時間も必要」。また、子供が小さいうちは「お母さん行かないで」という眼差し・言葉に後ろ髪をひかれたり、学校行事に参加できないことに申し訳なく感じたりすることもあると思いますが、彼女の息子さんたちが大きくなってから「お母さんは責任ある仕事をしていて僕たちの誇りだ」と言われ、きちんと子供に愛を注いいでいれば伝わっていると感じたそうです。
この言葉を聞いて以降、子供は私を見ていると自覚し、愛情を伝えるほかにも、仕事に向かうときは楽しい顔をして家を出ようと心がけています。活き活きと仕事をしている母親をみた子供は「自分もあんな風にやりがいのある仕事を見つけたい」と思ってくれるはずです。一方で、イヤイヤ仕事に向かって子供に「辞めればいいのに」と思われてしまったら、家族間での協力体制が作れなくなってしまうかもしれません。
また、子供に仕事内容を少しでも理解してもらうことも重要だと思います。オフィスでは昨年夏にOpen Office Dayを初開催し、職員の子供(大半は小学生・幼児)にゲームをしながら「お父さん・お母さんのお仕事ってこんなこと」と学んでもらいました。子供たちはとても楽しそうで、帰宅してからも「IMFってこんなことしてるんだよねー」と振り返っていたそうです(わが子は2歳だったため、振り返りはできてません<笑>)。この企画・実行メンバーに加われたこともとても良い経験でしたし、今年も計画中です。
(参考)NHK取材
▼今後の目標やプランを教えて下さい!
仕事も育児も余裕がなくなってしまうことは多々ありますが、「人生一度きり、笑った者勝ち!」と思って、大きな視野で物事をみていけたらなと思っています(一言で言ってしまいましたが、これが難しいですよね。。)
子供がもう少し大きくなったら色々な国へ旅行したいです。色々な価値観があるということや、日本の素晴らしさを確認し、他の国の良いところを肌で感じて欲しいです。
▼最後に、メッセージをお願いします。
仕事と育児は両方ともラクではありませんが、助け合いの中でやっていけるはずですし、むしろ色々なことへの気付きから人生が豊かになるということを今のワーママ達が発信して次の世代にもどんどん繋がっていけばいいなと思います。Powermamaの他のママさんたちの記事を読んで、私も勇気づけられています!
子供や職場に申し訳ない気持ちが出ることもありますが、働いて・子供も産んで、ママ達の日本経済への貢献度はとても大きい、と自信を持ってもいいのではないかといろいろなワーママと話していて思うようになりました。
性別だけに限らず、障害を持った人たちや国籍など、子供たちの未来がフレキシブルでもっともっと楽しい世界になるように今の大人が頑張らねば!と思っています。
時々、「男なんだから泣かないの」や、「女の子なんだからそんな言葉言わないの」という大人が子供に言っている姿が見られますが、男の子だって泣きたいときはあるし、女の子だってそんな簡単に泣いてはいけないと思います。こういった大人の刷り込みが男女差を子供の意識に根付かせてしまうのだとしたら怖いと感じています。男性らしさや女子力ではなく、子供の『人間力』を磨いてあげられる親になりたいと思っています!
女性の日本経済への貢献について、ぜひこちらもご覧ください!
★ラガルド専務理事メッセージ
https://aria.nikkei.com/atcl/column/19/032500088/032500001/
★男女不平等な日本の労働市場 経済成長は持続しない
https://aria.nikkei.com/atcl/column/19/032500088/041100002/?i_cid=nbparia_sied_st_my
取材日:2019年5月30日